ナノポア流動ダイナミクス

AIナノポアの謎を解く:複雑な流れをシミュレーション

ナノポアは、見た目にはシリコン基板に開けられた小さな穴にすぎません。その直径はわずか数100ナノメートル以下です。しかし、この穴の中を物質が通過する際の「流れのダイナミクス」は、非常に複雑です。 例えば、マイナスに帯電したナノ粒子が1つ、ナノポアを通過しようとすると、以下の3つの力が同時に作用します。

電気泳動力: 電圧をかけることで、プラスの電極に引き寄せられる力
電気浸透流: ナノポア内を流れる液体が、電気の力で移動しようとする流れ
液体抗力: 液体から受ける抵抗

従来の科学では、複雑な現象を個々の単純な理論で説明しようとしてきました。しかし、ナノスケールでは、これらの現象は独立しているのではなく、互いに影響し合っています。そのため、ナノポア内のダイナミクスを解明するには、これら3つの力を記述する方程式を同時に解く必要があります。

マルチフィジックスシミュレーションの開発

私たちは、この3つの現象を同時に計算する「マルチフィジックスシミュレーション」という手法を開発しました。これにより、ナノポアを流れるイオン電流や、ナノ粒子が通過する際のイオン電流の時間的な変化(イオン電流-時間波形)を正確にシミュレーションできるようになりました。  このシミュレーションの結果、イオン電流-時間波形には、ナノ粒子の体積、構造、表面電荷といった重要な情報が含まれていることが判明しました。この発見が、AIを使ってこの波形を解析する技術の開発へとつながりました。

未来への展望:データ同化の融合

現在、ナノポア内のダイナミクスを時間的にシミュレーションする研究は、まだ未開拓の分野です。 複数の複雑な現象が絡み合うシミュレーションの代表例として、天気予報があります。天気予報では、実際の観測データとシミュレーションの結果をAIで統合する「データ同化」という技術が使われています。

私たちは今後、このデータ同化の概念をマルチフィジックスシミュレーションに融合させることで、ナノポアの研究をさらに加速させていきます。


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