偶然の発見を必然に:化学の未来を変える
皆さんは学生時代に「A + B → C」といったシンプルな化学反応を学びましたね。しかし、実際の化学反応では、目的の物質Cだけでなく、意図しないDやEといった物質が少量ながらも生成されます。これらの副産物は、ほとんどの場合、見過ごされ、捨てられてしまいます。 しかし、歴史を振り返ると、世界を変えるような大発見は、この「捨てられる運命」にあったDやEの中から生まれることがよくあります。これはセレンディピティ、つまり「思いがけない幸運な発見」と呼ばれ、科学の世界で最高の敬意をもって語られます。
一分子計測とAIが鍵を握る
もし、このセレンディピティを意図的に引き起こすことができたら、どうなるでしょうか? 私たちは、この偶然の発見を必然にするための技術を開発しています。それが、「ナノギャップ」を使った「一分子計測」とAIを組み合わせた技術です。この技術を使えば、化学反応の過程で生まれる極微量のDやEを分子レベルで探し出すことができます。
化学者の夢:反応の瞬間を捉える
化学反応は、物質が変化する瞬間に「遷移状態」と呼ばれる不安定な状態を経由すると考えられています。しかし、この遷移状態を直接、一分子レベルで観察できた例はまだありません。これは長年の化学者の夢でした。 私たちは、この夢を実現するため、化学反応が起きるピコ秒(1兆分の1秒)やフェムト秒(1000兆分の1秒*といった超高速の時間を計測できる技術を開発し、化学反応の瞬間を分子単位で観察することを目指しています。 さらに、分子同士が衝突する方向を制御しながら観察することで、フラスコの中での反応では見えなかった、新しい分子の結合様式を発見しつつあります。この研究は、まだ誰も想像しえなかった新素材を生み出し、世界の課題を解決する力になると信じています。
